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「 Sugar And Spice 」


*設定を現代に置き換えたメンxキャロ話のパート2です。










彼は古いものが大好きだった。
選んだ車は '60年代の真っ赤なコルベット。
音楽は '70年代が一番だと言って譲らず、しかもそれらをレコード盤で聴いている。
部屋にはガラクタにしか見えないものが沢山転がっていて、ソファーもランプも、部屋の中のものは何もかもが古いもので満たされていた。

アンティークが好きなのね?

きょろきょろしながらそう言うキャロルに彼は、厳密には製造されてから百年以上の刻(とき)を経たものだけがアンティークと呼ばれるのだとそう教えてくれた。
ここにあるのは百年に満たない、ジャンクといわれるものたちが殆どだと。

ジャンク(がらくた)だなんて!
ママ好みのヨーロッパ製の品の良い高級な調度品に囲まれて育ったキャロルには、始めのうちこそとても奇異に映っていたそれらも、手に触れて眺めていると、不思議と心が落ち着くものばかりだと気が付いた。
コーヒーカップの輪染みや傷が付いて丁度いい感じにあめ色になった剥き出しの木のテーブル、恐らくは前の持ち主が猫に引っ掛かれたままにしていたと思しきベルベット張りのソファー、古いボーリング場の片隅に積み上げてあったという '50年代のイームズの白いアーム・シェル・チェアー、くすんではっきりとは映らないけど、デコラティブな装飾の施された、太陽の形のような美しい鏡、暗闇の中で見たら悲鳴を上げるに違いない、床に転がる白い胸像。
色々な古いもので溢れ返るこの部屋で一番新しいものは、恐らくキャロル自身だろう。


初めて訪れた彼の部屋で彼女はそわそわと落ち着かなかった。
二人の兄以外の若い男性の部屋を訪れたのは初めてではなかったのに。
過去にもジミーの部屋で一緒に勉強したことも何度かあったし、アフマドが現れてからは彼の部屋で時を忘れて話し込んだこともあった。

でも明らかにそれまでとは空気が違っていた。
部屋の外に家族も居ないし、使用人が外を出歩いているわけでもない。
完全に二人っきりで一つの部屋にいる。それも大好きな彼と一緒に。
家族が知ったら絶対にお説教されてしまうだろう。



「こっちへ来いよ」

ソファーで彼が手招きしている。
何か予感めいたものがキャロルの心拍数を上げていく。

「・・・ん」
「どうした?」

ソファーの横で立ちすくんだままのキャロルに業を煮やし、メンフィスはそのか細い腕を掴み、ぐいと引き寄せて膝の上にキャロルを横抱きにした。

「きゃっ」

そのまま彼は当然のように彼女に口付けた。
軽く触れるだけのキスだったことに安堵と共に感じるほんの少しの失望。
キャロルの気持ちを知ってか知らずか、背中を支えていたメンフィスの手がキャロルの首根をしっかりと捉えると、覆いかぶさるように激しく唇を求め始めた。

「んんっ」
驚いてじたばたするキャロルの様子も、メンフィスには更なる刺激を与えるだけだった。
熱い口付けを与えながら、彼は彼女の体中を服の上から撫で始めた。
ワンピースの裾をめくり、太腿に手が触れた時、とうとうキャロルが力を振り絞ってメンフィスの胸を押し退けた。

「やめっ」
「何故」
「いやっ!やめてっ!!」

怖い!

そう思った瞬間、キャロルは気が付けばメンフィスの頬をはたいていた。

「!」
「あ・・・」
「殴ることないだろう?」
ジロリ、と睨みながらメンフィスが唇をへの字に曲げた。
「ご・・・ごめんなさい・・・あの・・・わたし・・・」
「・・・お前にはたかれたのは2度目だな」
「ご、ごめん・・・なさい」

メンフィスはふうっと息を吐くと、キャロルをソファーに残してキッチンへ入って行った。
くそっ、と言う声と共に乱暴に冷蔵庫を閉める音がバタン、と大きく響く。


メンフィス・・・怒ったの?


泣きたいような気持ちでそっと立ち上がり、キャロルはキッチンへとメンフィスの後を追った。

「メ―――」
「―――来るな」

メンフィスは背中を向けてシンクの前に立っていた。

「ねえ、メン・・・」
「来るな。向こうへ行ってろ」

振り向きもせずにメンフィスが言い放つ。


酷い・・・メンフィス。


キャロルは踵を返すと、コートとバッグを持って部屋をバタバタと出て行った。


キャロル!と呼び止める声が聞こえたような気がしたけど・・・

・・・いいえ、聞こえないわ。

もう知らない!









――――「久しぶりよねえ?こうして一緒にショッピングするのって」

タイムズ・スクエアのスターバックスで大好きなアイス・モカ・ラテをごくごくと飲みながらキャロルはきょろきょろと外を眺めている。
ストローから唇を離し、カップをテーブルに置くと、マリアはそんなキャロルをじいーっと観察するように見つめていた。

「そろそろ話してくれてもいいんじゃない?キャロル。一体彼と何があったの」
「ねえ、さっきのお店にもう一度付き合ってくれない?やっぱりあのTシャツ、買っておけばよかったって・・・」
「キャロル!!?」
「・・・・・・」

誤魔化すことを決して許してくれない親友の眼差しにキャロルは諦めの溜息を吐くと、テーブルに頬杖をついた。




"怖がることないわよ。 彼のこと、好きなんでしょ? "

そう言って肩をすくめたマリアの真ん丸い瞳を思い出し、キャロルは寝返りを打った。


そうよ、わたしはメンフィスが好き。
誰よりも好き。
メンフィスしかいないと解っているの。

でも・・・・・・


あの日以来メンフィスとは一言も話もしていなかった。
大学の構内で数回すれ違っただけ。
彼は何か言いたげな瞳でわたしを見てるだけ。話しかけてくれるどころか、電話ひとつかけてこない。


・・・・・・ううん。
彼が悪いんじゃないってことは解ってる。
臆病なわたしがいけないんだって。

それに、プライドが高い彼にとって自分から折れるなんてこと、きっと無理なんだわ。

だけど・・・
仲直りのきっかけがつかめない。


何度も寝返りを打ちながら、キャロルは大好きな彼の漆黒の瞳を思い浮かべては溜息を吐くばかりだった。








――― 「ええ!?お仕事関係のパーティーでしょ?何故わたしが!?」
「キャロル、前はあんなに行きたがっていたじゃないの。あなたもそろそろそういう場に顔を出しても構わない歳になったのだから」
「だってママ!わたしの知らないお仕事のお話ばっかりできっと退屈に決まってるもの。気が進まないわ」
「その点なら大丈夫だ、キャロル。そう言うだろうと思ってアフマドにも声を掛けてある。退屈なんてしない筈だ」
「やっ・・・やあよ!絶対に行かないわ!」
「キャロル!?」
「悪いけどその日はメンフィスと出掛けるの。パーティーなんて絶対に行かない」

アフマドも来るだなんて。余計に気まずくて行く気がしないのに。
兄さんもママもどうして判ってくれないんだろう。

「・・・キャロル」
読んでいた新聞紙からわざわざ顔を上げ、キャロル、と低い声で名を呼ぶ時の長兄は、大抵お説教モードの時だ。
それを踏まえ、キャロルは身構えて兄の顔を見つめた。
「あの青年と付き合うのは感心しないと前にも言ったと思うが、その言葉を訂正するよ」
「?」
「即刻付き合いをやめるんだ」
「にっ・・・」

長兄の言葉に、ただ様子を見守っていた次兄が目を丸くしてヒューと口笛を吹いた。
「ライアン、それはあんまりよ」
「お母さんは甘すぎるんです。あの青年と付き合いだしてからキャロルは変わってしまった。すっかり反抗的で手が付けられない」
「そんなことないわ!兄さんが反対ばかりするからじゃない」
「門限も何度破った?通りに停めた車の中で人目も憚らずいつまでもキスなんかして。お前はそんなはしたない娘じゃなかったはずだ」
「車の中・・・って、おやすみのキスだろう?それって普通じゃないの?」
次兄の言葉に全員が一斉に振り返った。








―――「これはこれは、ミス・リード!いつの間にこんな美しいレディに!?以前お会いした時はまだお小さい頃だったと記憶しているが」
「ありがとうございます。まだまだ中身はお転婆なままですがね」
「ありがとうございます、ミスター・キャンベル。兄はこう言ってますが、わたしもうお転婆なんかじゃありませんわよ」
「でもまだまだレディとは言えないだろう?」
「はっはっは。相変わらず仲の良いご兄妹だ」

これで何人目だろう。
同じような会話ばかり繰り返されては時間だけが過ぎて行く。

つまんない。

そう思い始めたキャロルの肩をトントンと叩く指先に、振り返れば其処にアフマドが笑顔で立っていた。

「キャロル、元気そうだね」
「アフマド」
「ああ、アフマド。来てくれたんだね」
「お招きありがとうございました、ミスター・リード」
「いや、こちらこそ君の都合も考えず強引に誘って悪かったかな?」
「いいえ、とんでもない」
「キャロルがそろそろ退屈してたとこなんだ。相手を頼んでもいいかい?」
「勿論ですよ。それは光栄だ」
「キャロル、お酒を飲んじゃいけないよ。いいね?」

うんざりした顔で頷くと、キャロルはアフマドと連れ立ってその場を離れた。

「何か飲むかい?」
「・・・ううん、何も要らない」
「パーティーなんだよ?」
「だって・・・お酒も飲めないのにパーティーだなんて、そんなのパーティーとは言えないわ。大体飲ませてもくれないなら連れて来るのが間違ってる。そうでしょう?」
不機嫌な様子で捲くし立てるキャロルにアフマドはやれやれといった顔で目を丸くすると、通りかかったバーテンを捕まえて飲み物を頼んだ。
そのまま歩き続けた二人は壁際に凭れ、其処に集う人々を観察するように見つめていた。少なくともキャロルだけはそうしていた。
飲み物を運んで来た先ほどの給仕係からそれを受け取り、アフマドはキャロルへとグラスを手渡そうとした。
「要らないって」
「大丈夫。お酒は入ってないよ」
渋々受け取ろうとしてふと二人の指先が触れ合った。
「!」
「・・・」
少し気まずそうな顔で慌ててグラスを口元に寄せ、キャロルは視線を会場の人々へと泳がせた。

「あの青年と・・・付き合ってるんだって?」
「・・・・・・いけない?」
「君の兄上がとても心配しているよ」
「あなたに言われる筋合いではないわ」
「キャロル、僕は唯一君と付き合うことを許された人間なんだよ?君のことを思ってるし、それに―――」
「―――メンフィスが好きなの」
「!」
「ごめんなさい」
「キャロル―――」
「―――メンフィスが」

再びメンフィスの名を口にしたキャロルの瞳からはらはらと雫が零れ落ちる。
「ごめんなさい、アフマド・・・わたし・・・」
「・・・・・・」
アフマドが涙を拭おうとするのをやんわりと拒み、キャロルは自分の指先で軽くその涙を拭った。

「嫌だ、わたしったら・・・ちょっとお化粧、直してくる」

グラスをアフマドに手渡し、キャロルはパウダールームに消えた。





鏡の前で自分の姿を見つめていたキャロルは、あのカウントダウン・パーティーの夜を思い出していた。
あの日もアフマドを会場に残したまま、こうしてパウダールームで自分を見つめていたっけ。
そして廊下に出たわたしを待っていたメンフィス――

そこでカウントダウンが始まって・・・

そして初めてのキスをくれた。

お前が好きだって、そう言ってくれた。



メンフィス・・・・・・

会いたい・・・・・・



メンフィスに会いたい!





いてもたってもいられず、キャロルはパウダールームを出ると、ひとりこっそり会場を抜け出した。

クロークへ預けていたコートを羽織り、会場のホテルを出たところでタクシーを捕まえ、メンフィスのアパートメントへと向かう。



突然訪ねたら驚くかしら。

それに・・・この間のこと、許してくれるかしら。


どきどきと不安な気持ちに落ち着かないまま窓の外へと目をやった。
流れて行く街の景色を眺めていたキャロルが、突然ハッとしたように窓に張り付いた。


―――!! メンフィス―――!!


目に飛び込んできたのはカフェから出て来た一組の男女。
メンフィスの姿が街の明かりに包まれるようにして遠くへと消え去って行く。


メンフィス―――!!








メンフィスのアパートメントの下の階段に腰掛け、膝の上で頬杖をついてキャロルはぼんやりとさっき見た光景を思い出しては溜息を吐いていた。
あれは・・・ミス・ブルネット?
ニット帽を被っていてよくは見えなかったが、彼女に間違いはないだろう。

メンフィスはまた彼女の元へ戻ってしまったの?

もうわたしのこと・・・・・・嫌いになっちゃったの?

滲んで行く街の景色が、やがて涙の所為だけじゃないと気付いた頃には、キャロルは突然降り出した雨にずぶ濡れになっていた。
もう雪の降る季節は過ぎたものの、まだまだコートが必要な時期だというのに。


寒くて惨めで悲しくて・・・ますます溢れてくる涙。
溢れ続ける涙を洗い流すように、瞳を閉じて空を仰いだ、その時―――

「キャロル!!」

待っていた人の声が雨音に混じって闇の中に響いた。








備え付けのヒーターの上に直接掛けられた濡れた衣服からもうもうと湯気が立っている。
メンフィスのぶかぶかのシャツを借りたキャロルは更にバスタオルをスカートのように腰に巻いて、ソファーの上で膝を抱えていた。
シャワーを浴び終えたメンフィスが髪を拭きながら部屋に入ってくるのを横目に、キャロルはテーブルの上にあった空の写真集に手を伸ばして、それを膝の上に広げて眺め始めた。
キッチンからソーダの栓を捻る音がする。
何か音がする度にびくっとしたように肩をすくめるキャロルに苦笑し、メンフィスはソーダ入りの水を飲みながらキャロルの向かいに置かれた椅子へと腰を下ろした。

視線の中に入ってきたメンフィスのジーンズの色と、開いていたページの空の青さが恨めしく感じられる。
窓の外と同じ、わたしの心の中はまだ雨が降り続いているのに。

「―――キャロル」
「―――ミス・ブルネットと・・・」

同時に発せられた言葉にお互いハッと顔を上げ、互いの瞳を見つめる。

「・・・よりが戻ったのね」
「何だって?」
「だから・・・わたしのこと、ずっと避けているのね」
「違う、キャロル」
「もうわたしのこと・・・嫌いになっちゃた?」

濡れた青い瞳がメンフィスの黒い瞳を捉える。
メンフィスは立ち上がってキャロルの足元に跪くようにして、青ざめた頬へと手を伸ばした。

「ずっと・・・ずっとメンフィスに謝りたかったの。許してねって」
「違う、お前が悪かったんじゃない。謝るな」
「メンフィス」
「嫌いになるわけ、ないだろ?」

そう言ってメンフィスはキャロルの指先に唇を寄せた。
「でも・・・・・・見ちゃったの。さっきメンフィス、あの人とカフェから・・・」
「!? 偶然店の中で会っただけだ。あの後すぐに別れた」
「!?」
「じゃなきゃ今頃こうしてここに居ない。 お前だけだと言ったろ?」

メンフィスの手がキャロルの後頭部を引き寄せる。
重なった唇が離れ、角度を変えてまた重なる。
何度も何度も繰り返される口付け。



―――とその時、キャロルのバッグの中から聞こえる携帯電話のヒステリックな着信音。



ハッとしたようにメンフィスから体を離し、キャロルは戸惑いの表情を浮かべた。

きっと兄さんだわ。


キャロルの表情からそれを悟ったメンフィスはふーっと息を吐いた。

「・・・服が乾いたら送って行くよ」
「・・・・・・嫌」
「?」
「帰らない。メンフィスの傍にいさせて」
「キャロル?」
「帰りたくないの。お願い」

潤んだ瞳がメンフィスを見上げる。
そしてキャロルは決意を込めた表情で腰に巻いていたバスタオルを外した。
「!」
「メンフィスが好き。だからわたし・・・」
キャロルはしがみつくようにして自分から唇を重ねた。
メンフィスの手が金色の髪をすべり、白い首筋に触れる。
首を支えるようにして何度も交わる熱い唇。


その瞬間、再びけたたましく鳴り響くキャロルの携帯電話。

「・・・消しちゃって、メンフィス」

キャロルの言葉にメンフィスがふっと笑った。









「――― ん」

寒さにふと目を覚まし、キャロルはそっと窓へと目を向けた。

―――!?

季節外れの雪がちらつき、窓の桟に僅かながらに積もっていた。

「雪!?」

思わず声に出してしまったキャロルは、メンフィスを気遣いぐっすりと眠る顔を見上げた。
起こしては可哀想、そう思うのに、何故か甘えたくなってメンフィスの胸に身体を寄せた。
「・・・んん」
メンフィスは眠っている筈なのにキャロルをぎゅっと抱き締め直して、再び深い眠りの中へとおちていく。
それが嬉しくてメンフィスの胸に頬をぺたりとくっ付けて、キャロルは浮かんでしまって仕方のない笑みを噛み殺すように唇をぎゅっと結んだ。


人肌がこんなに暖かいものだったなんて知らなかった。
何度か目にしたことのあるメンフィスの裸の上半身。どうしてひんやりしていそう、だなんて思っていたんだろう。
初めて重ねたメンフィスの肌がこんなに暖かかったなんて。

メンフィス・・・・・・
わたしたち、とうとう結ばれてしまったのね。

キャロルはもう一度メンフィスの寝顔を見上げて、鼻の奥につんとこみ上げるものを堪えながら、そっと彼の頬に手を置いた。
そして触れるか触れないかのところで、メンフィスの唇をそっと撫でるようにして微笑む。

!!

と、突然寝ていた筈のメンフィスが、その指先をぱくっと口に咥えてニヤリと笑った。

「メ、メンフィス?起きてたの?」
「ふん」


がばっとブランケットを頭から被り直しながら、メンフィスはキャロルの身体を下にして、不敵な笑みを浮かべた―――





このお話の言い訳・あとがきはコチラ → 言い訳部屋 「Sugar And Spice」







 

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