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「 青玉 (せいぎょく) 」 2.





メンフィスは、呼びかけに少しの反応も見せないキャロルを不審に思いそっと近付く。


「キャロル・・・・・・そんな所で何をしている」
「・・・・・・」
「キャロル、返事をせぬか」


後ろから肩を掴まれ、無理やり振り返らされたキャロルは、逃げるように部屋の中へと足を進めた。

「待て、どうしたのだ、キャロル!待てと申すに!」

追い付かれ腕を掴まれたキャロルは必死に抵抗した。


「放して!」
「どうしたのだ!」
「いやっ!放って置いて!独りにして!」
「キャロル!!」

無理やり顎に手をかけ上を向かせると、泣き腫らした瞳がそこにあった。


「何を泣いていた」
「・・・・・・」
「わたしに申せぬことか」
「・・・・・・」
「黙っていては解らぬ」

メンフィスはキャロルの腕を掴んだまま近くにあった寝椅子へと腰掛けた。
立ったままのキャロルを見上げ、まじまじとその表情を窺う。


「・・・・・・そなた・・・・・・これを失くして気を落としていたのか?泣くほどに?」

メンフィスは手にしていた小さな包みをキャロルへと渡した。
渡された布を開いてみると、失くしたと思っていたネックレスの先飾りだった。

「これっ・・・・・・」
「今朝敷布の上に見つけた。そなたが気が付かず、侍女に片付けられてはまたそなたが大騒ぎすると思いわたしが預かったのだが・・・
昼餉の際に渡すつもりで戻ってみれば、そなたがそこまで気を落としていたとは」
「・・・・・・」
「何だ、嬉しくないのか?」

期待通りの反応を示さないキャロルに苛立ちが沸き起こる。

「・・・・・・ありがと・・・・・・」

それだけ言うのが精一杯で、再びキャロルの瞳からポロポロと涙が零れる。

「キャロル!」

逃げようとするキャロルを再びメンフィスが捕えた。


「一体どうしたと言うのだ!」
「いやっ!」
「申さぬか!」
「・・・・・・酷いわ!メンフィスの馬鹿!」
「な、何っ!!?」
「あんなものっ・・・・・・あんなものなんか」
「あんなもの!??」
「わたしと出会う前だからって・・・・・・酷いわっ」
「な、何を言っているのだ??さっぱり解らぬ!!」

とうとうメンフィスも堪えきれずに声を荒げた。

「あんなものだの酷いだの・・・・・・そなたの話はさっぱり解らぬ!きちんと説明いたせ!」

その言葉にキッとメンフィスを睨み返すと、キャロルは腕を振り払い、机の上の小箱をメンフィスへ乱暴に手渡した。

「お返しするわ!わたしのものじゃないから!」
「何だと!?」
「どちらの国の王女さまだか貴族のお嬢さまだか知らないけどっ、お忘れになって行ったみたいだからお返しするって言ってるの!
それともなあに?夜伽の侍女へのご褒美?わたしに出会う前のことだからって言い訳すればいいわ。でもおあいにくさま。
わたしちっとも妬いてなんかないんだから!」

一方的に捲し立てるキャロルをうんざりした顔で眺めながら、メンフィスは小箱の蓋を開けて中を確認した。
 
 
これは・・・・・・!?


「・・・・・・どこでこれを見つけた」
「ええ!?どこだっていい――」
「――どこで見つけたと聞いておる」
「そっ・・・れは・・・・・・メンフィスの・・・寝台と柱の隙間・・・」
「・・・・・・そうか・・・・・・」


メンフィスは顔色ひとつ変えずにただ一言そう呟くと、箱の中の耳飾を取り出して、キャロルの耳に飾ろうとした。
思わずその手をキャロルが振り払う。


「何するの?わたしのじゃないって言ってるでしょ」
「そなたのものだ」
「なっ、何言うの!?わたしのじゃないわ!」
「そなたのために作らせた」
「な・・・・・・」


メンフィスはニヤリと笑うとキャロルの腕を引っ張り、寝椅子へ引き倒した。


「嘘よ。信じない!都合のいい言い訳だわ」
「ほう、信じられぬと申すのか?このわたしが?」
「だって・・・・・・あんなところに・・・・・・」
「それはわたしが不覚をとったからだ。眠るそなたの耳にこっそり飾り、似合うか否か試したことがある。その時うっかり片方を落としたまでは覚えているが・・・・・・」
「・・・・・・何時の話よ」
「昨年だ。実はこの耳飾を贈るつもりで工房に頼んでいた。うっかり片方失くしたと思い込み、急遽その首飾りを贈った」
「ええ!? そ・・・それじゃあ・・・」


メンフィスはジロリとキャロルを睨むと、両手を押さえつけた。

「先程は随分と勝手な妄想を捲し立ててくれたな。このわたしに向ってあそこまで暴言を吐くとは大した度胸だ」
「そっ、それは・・・・・・」
「どこぞの王女と、だと!?夜伽に褒美だと!? このわたしに向って・・・なんと怖いもの知らずな女だ。即刻手討ちにされてもおかしくないぞ」
「メ、メンフィスが悪いんじゃない!それに本当のことじゃない!わたしに会う前は・・・・・・」
「それがどうした」
「ど、どうしたって・・・そんなことわたしに言わせないで!」
「ほう・・・・・・妬いているのか」
「なっ」


反応を面白がる風なメンフィスの瞳に、だんだんと怒りよりも切なさが込み上げ、キャロルは知らず知らずのうちに再び視界が滲むのを感じて顔を背けた。

「・・・酷い・・・」
「酷い?わたしが?酷い暴言を吐いたのはどちらだ」
「酷いわ・・・・・・わたしは意地悪なんか言わないのに・・・」
「キャロル」


メンフィスはキャロルを抱き起こすと、そのまま胸に抱きしめてそっと髪を撫でた。


「キャロル、わたしの過去がそんなに気になるか?こんなにそなたを思っているわたしの過去が?」
「・・・・・・知らない・・・・・・妬いてなんかいないもの」
「まことそなたは我が侭だな。このわたしがこれ程そなたを愛しんでいるというのに・・・・・・解らぬか?」
「・・・・・・」
「過去など忘れよ。わたしはそなたほど愛しめる女に出会ったことなどない。それまで心奪われた女も一人もおらぬ。本当だ。 そなたしか愛さぬと何度申せば解る?」
「・・・・・・ひっく」

キャロルの嗚咽が激しくなった。

「泣くなと申すに」
「だって・・・ひっく・・・わたし・・・わたし・・・・・・恥ずかし・・・・・・ひっく」


メンフィスはキャロルの顔を離してじっと見つめた。
何度指で拭ってやっても後から後から溢れる涙に困った顔で口付けを落とす。


「まことそなたは・・・いつでも早とちりばかりしおって」
「う・・・・・・」
「わたしがそなた以外の女に贈り物などしたことは一度もない。本当だ」
「う・・・・・・」
「何度も言うが、未来永劫、愛する女はそなただけだ」
「う・・・・・・」
「・・・・・・他に何か申せぬのか?」
「う・・・・・・」


漸くキャロルの顔に笑みが戻り、泣き笑いの顔で照れ臭そうにメンフィスを見上げていた。
メンフィスは手に持ったままの耳飾を今度こそキャロルの耳朶に飾ってやる。


「やはりよく似合う」
「・・・メンフィス」

そして今度こそゆっくりとその唇を味わうために再び涙を拭ってやる。


「わたしに暴言を吐いた罰だ。昼餉は要らぬ。代わりに、そなたを堪能いたすとしよう」
「や・・・いやよ!こんな昼間から」
「否なは言わせぬぞ」






―――― シャラシャラと耳元で鳴る音の心地よさか、王の腕の中の居心地よさか・・・・・・
 
 
気持ちよい風の吹く昼下がり、幸せそうな笑みを浮かべ眠る王妃の両の耳朶には、忘れ去られたサファイアが光を取り戻し輝いていた。






            The End








このお話の言い訳・あとがきはコチラ → 言い訳部屋 「青玉 - せいぎょく -」










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