忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「 青玉 (せいぎょく) 」 1.





「あー!?」
「ひ、姫さま?どうなさいました?」

自室での朝の支度の途中、侍女から髪を梳かれながら王妃が素っ頓狂な声を上げた。


な、ない! ネックレスの先が・・・ない!!
そ、そんなっ!

「あの、な、何でもないの・・・・・・ちょっと、思い出したことがあって」

まだ支度の途中であったというのに、ソワソワと落ち着きなく目が泳ぎだした主を、侍女が訝しげに見つめる。
とうとうじっとしていられなくなったキャロルは意を決して立ち上がった。

「姫さま!お髪のほうがまだ・・・」
「あ、後にしてくれる?わたし、ちょっと、用事を思い出しちゃって」
「姫さま!どちらへ行かれますの!? お独りではおやめくださいませ!姫さま!」

慌ててバタバタと後をつけて来る侍女たちを無視して、そこから繋がるとある部屋へと王妃が向かった。

その行く先を知った侍女たちは漸く足を緩めた。
王妃付きの侍女といえども、勝手に王の居室へ立ち入る事は許されていなかったし、第一それは無粋なことであったのだ。


そうっと王の寝室へ忍び込むと、既に清掃係によって綺麗に整えられていた。
目の前で敷布の取り替え作業に遭遇せず済んだ事にホッと胸を撫で下ろす。
一度、やはり忘れ物を取りに此処へ入った時に敷布を取替え中で、酷く気まずい思いをした事があったからだ。

だが、敷布の上に落ちていたとしたら・・・・・・
やはり清掃係の侍女の所へ行って尋ねたほうがいいだろうか。

・・・・・・ダメよ、そんなの、恥ずかしすぎる。
それに失くしたかもしれないなんて侍女の口からメンフィスに知られたら・・・・・・

仕方なく、寝台の周りをキョロキョロと見回してみる。

探すってこんな広い寝室どうやって・・・・・・
しかも清掃済みなのだ。
どう考えてもここにはないだろう。

でも・・・・・・

昨夜は確かにこの胸元を飾っていたのだ。
この寝台の上で。

「やはりそなたによく似合う」

そう言ってそこへ口付けてくれたのだから記憶違いということはないだろう。



やっぱりここじゃなくて・・・朝お部屋に帰るときに失くしちゃったのかしら。

・・・・・・どうしよう・・・・・・
メンフィスから贈られた物だったのに・・・・・・
メンフィスに何て言って謝ろう・・・・・・

きっとまたかんかんに怒り出すわ。
い、言えない・・・・・・

あああ・・・・・・どうしよ・・・


泣きそうになりながら、諦めきれずに再び寝台の周りをぐるっと一周してみる。
シーツをめくりながら、床に這いつくばって寝台の縁をぐるっと巡る。

もう・・・・・・こんなとこ見つかったらまた怒られちゃう。



その時、寝台と柱の僅かな隙間にきらっと一瞬光る物が目に入った。

「?」

手を突っ込んで取り出してみると、それはあろうことか見たこともない耳飾だった.

「―――!!!」


深く蒼い色の石を使った繊細な意匠で、女性の耳を飾るために作られた物であることは間違いなさそうだった。
それもかなり高貴な者が身につけるような品だったのだ。


何、これ?
どうしてこんなものがここに・・・・・・

これは・・・


どういうこと?




・・・これは・・・・・・わたしのイヤリングじゃない。



わたしのものじゃないわ。









―――「姫さま、ほら、お庭に鳥が飛んできてますわよ!見に行かれません?」
「姫さま?お部屋に飾るお花をご一緒に摘みに行きましょうよ」

朝からずっとふさぎこむ王妃を、テティや他の侍女達があの手この手で外に誘い出そうとしていた。
その度に曖昧に首を振り、ぼうーっと外を眺めたかと思うと、手元の書物へ目を落とすのだが、読んでいる風でもなくまたため息をついて外を眺める。

今日の王妃は人を寄せ付けない雰囲気なのだ。
ぼうーっとしているようで何だか殺気立っているようでもある。

自分に気を使う侍女達をありがたいと思う反面、今は誰とも口を聞きたくなかった。
失くしたネックレスの先飾りなどもうどうでもいいことのように思えた。


メンフィスの部屋で、しかもあろうことか寝台の側で見つけてしまった物は、余りにも衝撃的な想像力をもってキャロルを苦しめる。


わたしと出会うよりうんと前に、きっと誰かが落とした物なのよ。
そうよ・・・・・・きっと・・・うんと・・・うんと前のことよ・・・
解っていたことじゃない・・・・・・

メンフィスがわたしと出会う前には・・・おそらく数え切れない程の女の人がメンフィスに・・・・・・



頭では理解してきたつもりの事も、こうして目に見える物で事実を突き付けられ、証明されてしまうのは心底辛かった。

じんわりと視界が滲んできたかと思う間もなく、膝の上に置かれた手の甲にポタポタと涙が零れた。


「ひ、姫さま??いかがなされました!?」
「・・・・・・お願い・・・・・・独りにして」

やっとのことでそう言って侍女達を部屋から追い払った。
お気に入りのテティさえも遠ざけて、ひとしきり泣いた後、そっとバルコニーへと歩き出す。

ふっと下を見やると池の周りに鳥たちが集まってきている。
その様子をぼんやりと眺めるでもなく無感情にただ立ち尽くしていた、その時。


「キャロル」

「―――!!」



―――今一番会いたくない人の声に体が固まった。



 
 

   (・・・・・・To be continued. )










 
PR

Copyright © novels : All rights reserved

「novels」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]