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「 獅子に眠りを 」

 

 

 

「キャロル、キャロル」
「・・・・・・」
「起きよ、キャロル。寝室で共に眠ろうぞ」
「・・・・・・ん?」

どこで見つけてきたのか、傷付いたフェネックの手当てに一生懸命なキャロルは王の帰りを待つ間にフェネックの傍で眠りこけてしまっていた。
揺り起こしても一向に起きる気配がない。
仕方なく王は妃を寝室へ連れて行こうとそっと抱き上げて歩き出した。
途端にフェネックが大きな声で鳴き始め、ぐっすり眠っていた筈のキャロルが目を覚ましてしまった。

「ど、どうしたの!? まーっ、泣かないで、泣かないで!」

な、な、なんだ?

「メンフィスったらー!子狐をおどかしたのね!?だめよ、やっと眠り始めていたのに!」
「なっ、なにいー!?わたしは何もやっておら―――」
「―――かわいそうに、泣かないでね。わたしがそばについててあげるから」

な、何だというのだ!?こやつめ。
キャロルが傍にいると静かになりおって。

「メンフィス、睨み付けちゃ怖がるじゃないの」
「ふん!!わたしは何もしておらぬと申すに!!」

メンフィスは吐き捨てるように言うと、面白くなさそうにひとりさっさと奥の寝室へと
消えた。


後を追ってすぐに寝室に来ると思っていた妃が追って来ない。
王は腹立ち紛れに寝台脇に置いてある酒を一気に煽ると不貞寝を決め込んだ。


それから暫くして、漸く横たわる夫の傍に滑り込んだキャロルはそうっと夫の顔を覗き込んだ。
メンフィスは不機嫌そうな顔をして明らかに寝た振りをしている。

全くもう・・・いつまでも子供みたいなんだから。
すぐそうやって拗ねる。

こんな時、ごめんなさい、と素直に謝ればいいものを、ついつい意地を張ってしまうキャロルは、結局何も言わずに背中を向けて眠りについた。
お互いに相手が起きていることを気配で感じていながら、眠った振りをして意地を張り合った。
いつもなら先にメンフィスが折れてキャロルの唇を奪い、諍いを有耶無耶にするように半ば無理やりに組み敷くようにして仲直りするのだが。

その夜もメンフィスはそうするつもりでいたのだ。
キャロルから本物の寝息が聞こえてくるまでは。

こやつ!本当に寝おったのか!

くそうっ!わたしを何だと思っているのだ!


怒りに燃えた王は、結局なかなか寝付けずに、悶々としたまま何度も寝返りを打っては半身を起こした。
ふっと見下ろすと、疲れた顔でキャロルが熟睡している。
結果、溜息を吐いた王は寝台を降りると自室の寝室へと消えた。

 




翌日、早朝の礼拝の為、神殿に向かう輿の上でふたりは口を利かなかった。
メンフィスが怒って寝室を出て行ったことは今までにも何度かあった。
だが朝まで戻らなかったことは一度もなかったのだ。
何時でも戻ってきてキャロルを抱きしめてくれたのに。

キャロルは朝起きた時に何時もの様にメンフィスが先に起きて礼拝前に身を清める為に出て行ったとばかり思っていた。
起こしに来たテティに「姫様、メンフィス様とまた喧嘩でもされたのですか?」と聞かれるまで一緒にここで眠っていたと信じていた。


酷いわ、メンフィス。

キャロルは自分が夫を蔑ろにしているという意識も無く、ただ拗ねているようにしか見えない夫に憤慨していた。メンフィスのほうも決して謝ろうとしない妻に苛立ち、今回ばかりは何があっても先に己が折れて堪るか、とばかりに意地を張り続けていた。
礼拝の時もまたその帰り道も、王宮に帰ってからもひと言も口を利かないふたりに、間に立つ周りの人間だけがおろおろと振り回されていた。
食事も時間をずらし別々に摂るという周到さで、極力顔を合わさないように妙な配慮がなされた。
遅い昼食を摂りながら、キャロルは内心、夫がここまで意固地な態度を見せたことはなかったと不安が芽生え始めていた。

いつまでもつまらない意地を張るのはいつもわたしのほうなのに。
メンフィス、相当怒っているのかしら?

冷静になってよくよく考えてみれば、ここ数日は狐の世話に明け暮れて、メンフィスとゆっくり話らしい話もしていない。

そう言えばわたし、メンフィスにあの狐の世話の手伝いまでさせちゃったんだわ。
古代のファラオにそんなことさせちゃったなんて。

今頃になって焦り始めたキャロルは、食事もそこそこにメンフィスを訪ねようかとこっそり部屋を抜け出した。




ファラオの執務室前に来てみたが、どうやら此処にはいないらしい。
表宮殿をうろうろする王妃に気付いたウナスが慌ててキャロルの元へ飛んで来た。

「キャロル様!お一人で出歩かれては困ります!ファラオに知られれば・・・」
「そのファラオを探しているのよ!」
「ただ今協議中にございます。暫くは奥宮殿でお待ち下さい」
 
解ってるわよ、それくらい・・・・・・

ウナスに付き添われたキャロルは、泣きそうな思いで結局自室へと戻って行った。
 


自室に戻ると、キャロルの不在にキイキイ鳴きわめく子狐を侍女が困った顔であやしていた。
「まあ!わたしなら此処よ。ごめんね、もう大丈夫よ、此処にいるわ」

狐の顔を見た途端、それまでのことを忘れて駆け寄ってしまうキャロルを、ウナスは溜息交じりで見つめた。
暫く狐の様子を見守っていたキャロルは意を決して立ち上がると部屋の隅に控えていたウナスへと歩み寄った。

「ウナス、お願い。メンフィスに夕食は一緒に摂りたいから帰りを待ってるって、そう伝えてくれない?」

 



そんな日に限ってなかなか政務とは終わらないもので、一向に協議が終わる様子がない。
キャロルは空腹を堪えながらも狐の様子にも気を配ることを忘れない。
メンフィスが嫌がるからと思い、食事の場所にこそ連れて来なかったが、いつでも様子を見れるようにと隣の間に狐と侍女を控えさせていた。
今子狐は落ち着いた様子ですやすやと眠っている。
これなら安心とばかりに再び食卓に戻れば、メンフィスはまだ戻って来ていなかった。


どうして今日はこんなに遅いのだろう。
まさかメンフィス、まだ怒っていてわたしと顔を合わせたくないのかしら?

悪い方に妄想が止まらなくなるのを必至で堪えているうちに、キャロルは次第に意識が薄れて行った。
侍女が王からの触れを王妃に伝えるべく部屋に入って来た時には、既に王妃は眠りに落ちていた。

 
 

目を覚ましたキャロルは一瞬自分が何処にいるのかと戸惑い、きょろきょろと辺りを見回した。
そこはキャロルの寝室で、自分だけが寝台の上で横になっていた。
薄明かりの中で目を凝らしてみれば、メンフィスが横の寝椅子で酒を煽っていた。


「メンフィス?」
「全く・・・遅くなるから先に食べよと申したに、触れを待たずに眠りこけるなど」
「そんな」
「何も食べておらぬのであろう?此処へ参れ。さあ」

メンフィスが背を預ける寝椅子前の小卓に軽い食事が用意されていた。
キャロルは少し躊躇した後、寝台を降りて寝椅子の足元の床に腰を下ろした。
背後でメンフィスの動く気配がしたと思った瞬間、後ろから伸ばされたメンフィスの手がキャロルの首筋を這った。
その心地よさにうっとりと声を上げそうになりつつも、キャロルは確かめたかった言葉を口にしていた。


「メンフィス・・・・・・まだ怒ってる?」
「・・・・・・怒る?わたしが?」
「怒ってるかと・・・それで帰って来てくれないのかと思った」
「怒って口を利かぬのはそなたのほうであろう。わたしはそなたの言葉を待っておったのだぞ?」

意地悪く言いながらも、後ろからキャロルの頬や首筋を這う指先は艶かしくキャロルを誘っている。
甘い吐息を漏らしそうになりながらも、頭の隅ではしっかりと負けん気の強さが顔を覗かせていた。

「・・・わたしの言葉を待っていた? それって・・・わたしに謝れってこと?」
「キャ―――」
「―――ちょっと待ってメンフィス」

メンフィスの手を制して後ろを振り返るキャロルの瞳は、到底甘い吐息を漏らす類の瞳ではなかった。

「わたし、何も悪いことはしていないわ。どうしてわたしが謝るの?」
「・・・・・・何?」
 
一瞬で低い声が辺りの温度を凍らせた。
そこに侍女達が居れば皆青ざめて震えてしまう程の声色なのだが、この妃にだけはその温度が伝わらない。

「メンフィスこそ一人で勝手に拗ねちゃってるんじゃない。昨夜だってわたしを置いて自分の寝室に行っちゃって、戻ってきてくれなかったじゃない」

言い終わるか終わらぬかのうちに手にしていた杯を叩きつける音が静寂を奮わせた。
思わずビクッと肩をすくめるキャロルがメンフィスを見上げた時、隣の部屋から子狐の大きな鳴き声が響いた。

「あっ!」

キャロルが立ち上がる間にメンフィスは既にその声の方へと大股で歩き出していた。

「待って!メンフィス!やめて!」
「おのれ!」

言うが早いか、メンフィスは鳴きわめく狐をつまみ上げるとキャロルに振り返った。

「こやつの所為だ!成敗してくれるわ!!」
「やめてーっ!メンフィス酷いわっ!!」
「離せ!キャロルっ!」
「お願いやめて!かわいそうな子なのよ!?お願いメンフィス!」

脅えて暴れる狐がメンフィスに噛み付こうと牙を剥いた。
添え木をされた指先が必至に空を切るその姿に、キャロルは泣きながら必死でメンフィスに縋った。
やがてメンフィスは狐をつまみ上げて振り上げていた腕を下ろすと、クッションの上に乱暴に狐を戻した。
痛がる狐がキイキイと鳴くのを見てキャロルは涙目でメンフィスを見上げた。

「酷い、メンフィス」
「酷い?酷いのはそなたではないのか?このわたしを・・・」
 
メンフィスは暴言を吐きそうになる己を必死で堪えていた。
見れば拳がぶるぶると震えている。

「・・・・・・疲れるそなたを・・・ゆっくりと寝かしてやりたかっただけだ。それをっ・・・」

それだけ吐き捨てるように呟くと、メンフィスは早足で部屋を出て行った。
 

メンフィス?

キャロルはハッとしてメンフィスの出て行った扉の方を振り返った。
目の前の狐は脅えた目でキャロルを見つめてクンクンと小さく鳴いている。

わたし・・・この子の傍についててあげなきゃと思うのに・・・

でもメンフィスを放っておけない。

メンフィス!
行かないで!

「・・・ごめんね。でも・・・行かなきゃ・・・わたし・・・」

キャロルは涙を拭くと扉を開けてメンフィスの後を追った。

 

キャロルの寝室から繋がる部屋で、メンフィスは酒を煽ると再びその胚を壁に叩き付けた。
その音に扉の方から小さく「きゃっ」と声が聞こえた。

「来るな」

メンフィスは呟くとごろんと寝台に横になってそっぽを向いた。
キャロルはゆっくりとメンフィスの傍に近付くと、寝台の脇で立ち止まる。

「メンフィス」
「来るなと申した。命令だ。帰れ」
「嫌よ。帰らない」
「わたしの命令は絶対だ。帰れと言ったら帰れ」
「わたしの気持ちも絶対変らないわ。絶対に帰らないから!」

起き上がったメンフィスは卓上にあった酒瓶さえも壁に向けて叩き付けた。
壁の方から酒精の匂いが鼻を突く。


「帰れと言ったら帰れ!これ以上わたしを怒らせるな!」
「脅かしたって無駄よ。ちっとも怖くなんかないんだから!」

ふたりとも一歩も譲らずに睨み合った。

「・・・・・・勝手にしろ!」

再び不貞腐れたようにごろんと横になるメンフィスを溜息をついて見つめると、キャロルはメンフィスが叩き付けた杯や酒瓶の破片を拾い集め出した。


「・・・・・・何をしている」
「・・・・・・」
「止めよ。怪我するのがおちだ」
「・・・・・・」
「止めよと申す―――」
「痛っ!」
「キャロル!」

メンフィスは飛び起きるとキャロルの元へ走り寄った。
そして腰を落としてキャロルの指を取り、切った指先を口に含んで血を舐め取ってやった。

「だから止めよと申したに・・・まことそなたはそそっかし・・・」
「――メンフィス!」

堪らず抱きつくキャロルを力いっぱい抱きしめると、メンフィスはキャロルを抱き上げて寝台に寝かせた。


「・・・もう止まらぬぞ。よいな?」

そう言ってメンフィスは身体を重ねた。
やがてふたりの吐息が混ざり合って溶け合って行った。

 




乾いた心を潤わせるように何時になく余裕の無いメンフィスの様子に、キャロルは胸が張り裂けそうになった。
これ程急いたように抱かれたことは久しくなかったように思えた。
メンフィスの顔を見上げると、バツが悪そうに取り澄ましているのがありありと伺えた。

どうしてだろう。
そんなメンフィスが何故だか可愛いく思えて仕方がなかった。
あんなに怒ったメンフィスを見たのも本当に久しぶりだったし、こうして急いたように抱いてしまったことを恥じているのかのように取り澄ますメンフィスが愛しくて堪らない。

こんな気持ちになるなんて・・・

喧嘩も悪いものじゃないかも。

「ふふっ」

キャロルはクスッと笑うとメンフィスの腕を解いて、少し上のほうへと身体を移動させた。

「何を・・・」

キャロルは微笑んでメンフィスの髪を撫でると、そっとメンフィスの頭を自分の胸に抱き寄せた。


「な、何をする?」
「ふふ」
「止めよ!」
「いいからじっとしてて」
「キャロル!」

キャロルの腕を引き剥がそうとメンフィスの力強い腕がキャロルの細腕に触れたその時。

「愛してるわ・・・メンフィス」

キャロルの優しい声が頭上から降り注ぎ、メンフィスの腕の動きが止まった。

「・・・解っておるわ!」

照れ隠しにそう吐き捨てるように言うと、メンフィスは尚も身体を引き剥がそうとキャロルの腕に触れた。


「駄目!メンフィス、じっとして!」
「何ー?このわたしに命令する気か?」
「いいから!」


キャロルはメンフィスの腕を掴むと、自分の背中へと誘(いざな)い、再びメンフィスの体を抱き寄せて、メンフィスがいつも自分にしてくれるように髪の毛や頬へと口付けを落とした。

「・・・いいからじっとしてて」


やがて不貞腐れていた筈の唇の端が、いつの間にか満足そうに持ち上がっていたメンフィスから寝息が聞こえ始めた。
キャロルはいつまでもいつまでもメンフィスの髪を梳きながら、メンフィスの吐息を胸に感じていた。


ごめんね、メンフィス。


メンフィスを胸に抱きしめるキャロルもいつしか深い眠りを貪った。


明け方近くにその控えめな胸を這うメンフィスの唇に起こされるまで。





☆王宮猫様、素敵なリクをありがとうございました。

このお話の言い訳・あとがきはコチラ → 言い訳部屋 「獅子に眠りを」





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