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「 最初のKISS 」


*設定を現代に置き換えたメンxキャロ話です。





 

 

ママが昔着ていたというChristian Diorの優しい色合いのヴィンテージ・ドレスは、未だ成長途中のキャロルの胸元には余裕がありすぎて背伸びしすぎに見えた。
パーティー会場まで送ってくれるという長兄に眉をひそめられないように、キャロルはコートの襟元をぎゅうっと手で隠すように握り締めて背筋を伸ばすように座っていた。
リムジンの中ですら兄は電話であれこれと仕事の指示を与えたり報告を聞いたりと、ほんのひと時の時間すらも休むことがない。
漸く電話を切り、キャロルの方に視線が向いたのはもうパーティー会場へ着くほんの手前だった。

折角アフマドが迎えに来てくれるって言ってくれたのに、兄さんったら自分が送って行くって聞かなかった。
幾ら兄さんも慈善パーティーに出掛けるついでだからって、こんなリムジンなんかでパーティー会場に乗り着けるだなんて、じろじろ見られて恥ずかしいのに。
もう・・・わたしだって大学生になったのにいつまでも子供扱いなんだから。

少しだけぷうっと脹れたままのキャロルの心を見透かしたように、ライアンは目を細めて妹を見やる。

「キャロル、いいかい?絶対にお酒は飲まないこと。それから必ず約束の時間までに運転手に連絡すること。解ってるね?」
「もう何回も言わないで、兄さんったら」
「楽しんでおいで。でも羽目を外しちゃ駄目だぞ」

案の定リムジンを降り立つ時にあちこちから口笛が飛んだ。
なんだか恥ずかしくなってキャロルはライアンの顔もろくに振り返らずにさっさと歩き出した。


「キャロル!」
「あ、マリア。早かったのね」
「ちょっと、キャロル!あ~あ、行っちゃった。ライアンさんにご挨拶したかったのに」
「いやだ、マリア、なあに?そのアイ・メイク。ちょっと濃すぎるんじゃない?」
「あら、パーティーなんだから。それより、うわあ、素敵じゃない、そのドレス」
「ママのヴィンテージ・ドレスなの。マリアこそとっても素敵よ。よく似合うわ」

女の子達はお互いに選択したドレスを褒めちぎり合いながら、そそくさと会場の中へと急いだ。
入り口のクロークでコートを預けると、剥き出しの肩にひんやりとした風が冷たい。
胸元を気にしながらマリアと手を取り合い奥の方へと足を進めた。
既に会場は熱気に包まれて、バンド演奏に合わせてもう踊り始めている人達もいた。マリアはボーイフレンドのハッサンの姿を見つけたらしく、キャロルにウィンクしてハッサンの方へと行ってしまった。


彼はもう来ているかしら?
きょろきょろと人だかりを伺ってみる。

黒くて長い髪の男の人なんてきっと彼しかいない筈。


キャロルは最近何かと衝突してばかりのひとつ年上の青年の姿を探していた。

" ふん、どうせお守付きで来るんだろう、お嬢さまは "
そう言って鼻で笑った彼。
いつだってわたしのこと子供扱いして小馬鹿にしたように意地悪く笑って、皮肉ばっかり言う彼に、今日こそは何の嫌味も言わせないわ。

彼を脅かしてやりたくて、ちょっと背伸びして選んだドレス。
ママは初めは首を横に振ったけれど、着て見せた途端に嬉しそうに微笑んでOKしてくれた。
「あなたももうこんなドレスを着る年頃になったのね」
そう言って眩しそうに見つめてくれた。




大学の社交クラブで彼に出会ったのは入学してすぐの頃。
ひとつ年上の彼はキャンパスの人気者だった。
浅黒い肌に漆黒の長い髪。
夜の闇を閉じ込めたような瞳。
エキゾチックでまるで女性のように美しい彼を初めて見た時、どうしてだか初めて会った気がしなかった。
社交クラブの集まりで何度か会ううちに、プレイボーイとして名高い彼、メンフィスは、人前でキャロルに軽々しくキスしようとして頬をぶたれた。
プライドを傷つけられたメンフィスと軽薄なメンフィスに腹を立てたキャロル。
それ以来二人は反目し合ったように何かと衝突してばかりだった。
大学に入学して初めての盛大なニュー・イヤーズ・イヴのパーティーに興奮して、何を着て行くかカフェテリアではしゃぐキャロルに、近くにいたメンフィスが件の台詞をぶつけたのだった。

馬鹿にしないで。
そう言い返すキャロルにふん、と鼻で笑って唇を釣り上げるメンフィスの横には、いつだって大人っぽくて綺麗な女の人が張り付いていた。
しかもいつだって連れている女の人が違っていた。

そんな軽薄な人に軽々しくキスなんかさせてたまるもんですか!

あの日のことを思い出したキャロルは自然とぷっと唇を尖らせていた。
ふとガラス窓に映る自分を見て慌てて唇を元に戻す。
ママはこれでいいと言ったけど、口紅の色、これでよかったかな?

そんなことを考えてガラス窓を見つめていると、背後に近付く影が映りこんだ。

メンフィス?

はっとして振り返ると、切れ長の黒い瞳を少しまん丸くしたメンフィスがキャロルの全身を眺めた。

「これはこれは・・・一体・・・」
「な、何よ」
「・・・ふん、借り物のドレスか」
「えっ?」
「フィッティングは大事だ。胸元に隙間があり過ぎる」
「なっ!!」

ふん、と意地悪そうに唇を釣り上げて笑うと、メンフィスは胸元を手で隠すキャロルを置き去りにして反対側へ歩き出した。
そして彼を待つブルネットの髪の美しい女性が、彼の腕に手をかけてキャロルをチラッと見て、軽く挑戦的に笑った。

なっ、何よっ!フィッティングって!隙間って!どういう意味よっ!
それに何よ、あの笑い!
不愉快だわ!

キャロルは再び唇をぷうっと尖らせると、通り過ぎようとしたバーテンのトレイからカクテルをひったくるようにしてごくっと一口飲んだ。

げほげほっ。
ライアン兄さんの言いつけを忘れ、飲めもしないアルコールを勢い良く口にしたせいで噎せてしまった。
「キャロル!」
声に振り返ると、アフマドが慌ててキャロルの手からカクテルグラスを取り上げた。
「何飲んでるんだ!キャロル!いけないよ」
「返して!いいじゃない、わたしもう子供じゃないわ」
「子供だよ!全く・・・やっと姿を見つけたと思ったら何やってるんだ?
僕は今夜ライアンさんから君の事をくれぐれも頼むときつく言われてるんだよ。
彼に知られたら・・・」
「ほっといて!」
キャロルはアフマドを残してさっさと歩き出す。
「待てよ、キャロル。何処へ行くんだ?」
「ちゃんとすぐ戻るから」
キャロルはそう言うとパウダー・ルームに姿を消した。



たった一口飲んだだけなのに、真っ赤な顔でトロンとした目になってしまった自分が、やっぱりどうしようもなく子供に思えて悔しかった。
家を出る前に見た鏡の中の自分は、今まで見たこと無いくらいに自分でもちょっと大人っぽく映って嬉しかったのに。
今此処で見る自分の姿は酷く滑稽で場違いに見えた。

さっきの・・・ブルネットの女(ひと)・・・
背中が大胆に開いたセクシーな黒いドレスがとても似合っていた。
明らかに年上のその女(ひと)をエスコートするメンフィスも、見るからに質の良さそうな白いドレスシャツと、締めずに交差させただけで垂らしたタイにタキシード・ジャケットをラフに羽織り、おそらくはヴィンテージもののジーンズでドレス・ダウンしてグレーのボルサリーノを被り、ドレス・アップする人々ばかりの中にあって絶妙なセンスでとても目立っていた。


やっぱり最初にママが言ったようにジル・スチュアートのドレスにすれば良かった。
わたしにはまだこんなドレスは早すぎたんだわ。
折角ママも喜んでくれたのに。
彼にたった一言「似合うよ」ってそう言ってもらいたかった、それだけだったのに・・・
そう思った瞬間キャロルはハッとしたように鏡の中の自分を見つめた。

何?何で彼が似合うよ、なんて言わなきゃならないわけ?

瞳を閉じてぶんぶんと首を振った。


隣で同じように鏡を覗き込む女の子がキャロルと鏡越しに目が合い、にっこりと微笑みを向けた。
「それってどこのドレス?」
「え?」
「色使いがとても綺麗ね。あなたの瞳の色ととても良く合ってるわ。その・・・とっても素敵よ」
「ほ、本当?」
「ええ、とてもね」
ウィンクをして彼女は出て行った。
何だか少し気持ちが軽くなったキャロルは、もう一度横を向いたり後ろを向いたりして、鏡の中の自分を見つめてみた。

ママが似合うと言って送り出してくれたんだもの。
もう気にするのは止めよう。

彼は意地悪なだけなんだから。




パウダー・ルームを出てフロアーに戻ると、アフマドが笑顔を見せた。
それからアフマドと一緒に軽く踊ったり、マリアやハッサン達と一緒に色々なお喋りをしたり、フロアーで始まったダンス・バトルを観戦したりして、あっという間に夜は更けていった。


時々、彼と連れのブルネットの女性やその仲間達との姿が目に入る。
ミス・ブルネットが(キャロルは心の中で彼女をそう呼んだ)艶っぽい微笑みでメンフィスの耳元に何かを囁き、ふたりは立ち上がると何処かへ消えた。
それを目で追いながら無意識に唇を噛むキャロルをアフマドはただ黙って見つめた。




暫く経って、再びパウダー・ルームへ行こうと、キャロルはケイト・スペードのお気に入りのカクテル・バッグを持って席を立った。
用を済ませ、鏡を覗き込み、いい感じに色の落ちた口紅を塗り直そうかどうしようかと逡巡して、やっぱり塗り直すのを止めてパウダー・ルームを後にした。

扉を開けて狭い廊下を抜け、左へ曲がったところに―――ポケットに手を突っ込み壁にもたれるようにして、彼、メンフィスがキャロルを待つように立っていた。

思わず立ち止まり、驚いた顔でメンフィスを見つめる。
メンフィスは何も言わず、ただじっとキャロルを見つめていた。
沈黙に耐え切れず、通り過ぎようとしたキャロルの行く手を彼の長い腕が阻む。
狭い通路では片手を壁に伸ばすだけで楽々とキャロルを引き止めることが出来た。

「何するの。通して」
「・・・・・・」
「通してって言ってるの」

睨むようにメンフィスを見つめると、メンフィスは相も変らず何も言わずにただキャロルを見つめていた。
何時になく真摯な色合いの視線に途惑った。
心臓が飛び出しそうにバクバクとし始めたキャロルは、それでも何とか彼の腕を潜り抜けると、アフマドやマリアの待つテーブルへと戻って行こうとした。
すると、再び伸ばされたメンフィスの腕がキャロルの細い腕を捕えて引き寄せた。

その時。音楽が止まり、大きな声で始まったカウント・ダウン。
ハッとしてキャロルはフロアーの方を一瞬見て、そしてメンフィスに向き直る。

「どうして?ミス・ブルネットが待ってるんでしょ?」
「キャロル・・・」
「やめて。放して」


「・・・three ! two ! one ! zero !!!   Happy new year ―――!!!」

フロアーから聞こえる大きな歓声と大合唱。

「・・・・・・Happy new year」
メンフィスはキャロルの耳元で低く囁くとそっとキスをした。


体中の力が抜けて行く。
まともに立っていられなくなってキャロルはメンフィスの腕の中に倒れこむように
抱き付いた。

「ど・・・どうして?」
「今年最初のキスの相手はお前と決めていた。それが理由じゃ・・・駄目か?」
「そんな・・・! あの女(ひと)は!?」
「さっき帰した」
「な、何で?」
「お前が・・・・・・」


お前が好きだ。


そう言ってメンフィスはもう一度キャロルに口付けた。
始めは啄むように軽く。
それを数回繰り返して、やがて彼は熱いキスをキャロルにくれた。
完全に力の抜けたキャロルはやっぱり同じようにメンフィスの腕の中に崩れた。


 " そのドレス、よく似合ってる "

そう聞こえたような気がしたけど・・・きっと気のせいよね・・・


 







―――― あれから数週間。
 

メンフィスの古いコルベットの助手席で、キャロルはジル・スチュアートのワンピースに、彼のモンクレールのダウンを羽織って肩を抱かれていた。
信号待ちで我慢出来ずにいつまでもキスをする二人をクラクションが取り囲み、やがて何台もの車が彼らを追い抜いて行った。







このお話の言い訳・あとがきはコチラ → 言い訳部屋 「最初のKISS」



 

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